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トップページ > 慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫





慢性硬膜下血腫について


頭部外傷でよく行われる手術のうち、「慢性硬膜下血腫」という非常に重要な病気があります。これは硬膜下血腫(硬膜の内側、脳の外側に溜まる血腫)が慢性、つまり頭部外傷を起こしてからすぐではなく、かなり時間が経過してから起きるものを呼びます。頭をぶつけてから3週間から3か月くらいに起きると言われております。
そして、大事なことは、そこまで激しく頭をぶつけていないにも関わらず、起きてしまうということです。顔や頭にたんこぶや骨折が出来ると危ない感じがしますが、つまづいてタンスにゴンとぶつける程度や、寝転んだ時にベッドの柵などに頭をぶつける程度であっても起きる可能性があります。また、頭をぶつけてすぐに検査をして何もなかったとしても、後から大きな血腫となる可能性があるので気をつけなければなりません。つまり、頭を打った時にどんなに検査をしても今後慢性硬膜下血腫を起こすか起こさないかは分かりません。ただ、ある程度予想はできます。例えば、①脳が萎縮してしまっていて血腫が溜まるスペースがある人、②お酒を毎日、あるいは大量に飲む習慣がある人、③血液サラサラになる薬を飲んでいる人、④水頭症の手術をしている人、⑤透析をしている人などは注意が必要です。高齢者に多いという印象もありますが、時々40歳代の中年の人でもなる人がいます。



症状


症状は頭痛や吐き気、または手足の麻痺や歩行が悪くなる、呂律が回らなくなるなど言葉の障害、認知症のような症状(物忘れ、日付が分からない、失禁する、意欲がなくなるなど)が多く見られます。ただそこまで症状が強く出ないことも多くあり、漠然と「何か変だな」と思った場合には病院で検査をしてみることをお勧めします。
検査は主に頭部CTで行います。症状が出るような場合は、かなりの量が溜まっているため、CTを行えば明らかです。ただ、症状が出なくても少量認められる場合があります。CTで分かりにくい場合には、必要に応じてMRIを行うこともあります。
治療は飲み薬による治療と手術による治療とがあります。症状がほとんどなく、画像でもそこまで多く溜まっていない場合は、飲み薬で様子をみることもあります。出血を止める止血剤や、体の水分バランスを整える漢方薬を主に用います。血腫が少なければ、これだけで血腫が無くなってしまう人もいます。ただ、症状が出ている、あるいは画像で血腫の量がかなり多い場合は、手術を勧めます。



手術方法


ただ、手術といっても、急性の時に行うような、全身麻酔で大きく頭蓋骨を開けるようなことは基本的にはしません。麻酔も局所麻酔で(それでも多少の鎮痛薬や鎮静薬は併用することが多いです)、頭蓋骨も親指が通るくらいの穴(約1cm強)を開けて中の血腫を吸い出す、という方法です。なぜ小さな穴で良いのかというと、いくつか理由があると思いますが、やはり一番の理由は慢性硬膜下血腫が「液体だから」です。これに対して、急性の血腫(硬膜外・硬膜下血腫や脳挫傷など)は一部液体の部分もありますが、ほとんどはゼリー状の個体です。だから「頭を開ける」必要があります。
例えてみると、ゼリーを食べる時、蓋を開けずにストローで食べようとするとなかなか難しいと思います。容器が透明でなければどこにゼリーが残っているかも分からず、結構余ってしまうかもしれません。ただ、それがゼリーではなく液体のジュースであれば、小さな穴から細いストローを使ってもほとんど吸い出せるのではないでしょうか。
また、慢性硬膜下血腫は時間が経っているため、血腫と脳の間にも血腫の「膜」が作られます。これによって、柔らかいチューブを細い穴から入れても、(優しくやれば)脳が傷付く可能性が低いという訳です。急性の場合は血腫と脳の間には弱い膜しかないため、優しくやっても脳を傷付ける可能性が高いのです。
手術の時間は大体30分くらいです。中には片側だけでなく両側に溜まっている人もおり、両側行う場合は大体1時間くらいです。術後、残った血腫を出す目的にチューブを入れたままにします。このチューブは翌日の検査で問題がなければ抜きます。
慢性硬膜下血腫の多くは血腫が取れれば速やかに症状が改善します。翌日にチューブを抜く頃には、ほとんど発症前の状態に戻ることが多いため、もう一日様子をみて経過が良ければ退院となります。つまり手術を行ったとしても、ほとんどの場合2泊3日の短期入院です。ただ、高齢の方で脳の萎縮が強い人の場合は、症状が良くなるまで時間がかかる場合もあります。止血剤や漢方薬の服用は継続します。退院したら最初の外来で抜糸を行い、その後は画像検査を見ながら、少しずつ薬を減らしていきます。薬の減る期間、通院しなくても良くなる期間は人それぞれですが、半年以上通院が必要、飲み薬が必要という人はかなり少なくなります。
ただ、やはり手術ですので、全く安全という訳ではありません。以下に慢性硬膜下血腫の手術のリスクについて説明します。


①出血のリスク


手術の範囲は小さいですが、やはり皮膚を切ったり頭蓋骨に穴を開けたりするため、出血を起こす可能性があります。また、血腫を抜くためのチューブで脳を傷つけてしまう可能性もあります。出血が酷ければ、全身麻酔での開頭手術が必要になる場合もあります。


②血腫があまり除去できない可能性


慢性硬膜下血腫は液体成分ですが、時間が経ったものは血腫のある空間にも膜が出来始めます。これによって、一カ所からチューブを入れても別の膜に囲まれた血腫が残ってしまう可能性もあります。更に時間が経つと、血腫の空間に膜ではなく、繊維のような構造物が出来ることもあります。こうなると、完全な除去をするためには小さな穴では難しくなり、開頭手術をしないと除去出来ない可能性もあります。慢性硬膜下血腫の空間内でも出血を起こすことは多いですが、出血が多いと液状ではなく固形の血液の塊を作ることもあり、その場合はチューブでは引けずに残ってしまうこともあります。


③再発の可能性


血腫を除去するだけの手術であり、出血点を止める訳ではないため、再度出血が溜まり再発する可能性があります。なぜ初めから出血点を止める手術を行わずに血腫を除去するだけの手術をするのかというと、理由は二つあります。一つ目は、出血点を確認して止めるためには、大きな開頭手術が必要だからです。二つ目は、血腫を除去するだけの手術で80%くらいは治ってしまうからです。全身麻酔をかけて、大きく開頭する手術をしなくても80%は良くなってしまうので、初めからそこまではしません。全身麻酔のリスク、開頭手術のリスクを考慮すると、尚更メリットはありません。
ただ、反対に再発の可能性が10〜20%あると言われています。もし再発した場合、同じ穴から再度チューブを入れて除去する手術を行います。何度も再発してしまうためには、やむを得ず出血点を止めるため、開頭手術が必要になる場合があります。また、出血の原因が硬膜の血管であることもあり、これをカテーテルで詰める手術を行うこともあります。


④その他


十分予防を心がけておりますが、外科手術に一般的に起きる感染のリスク、局所麻酔薬や鎮痛剤、鎮静剤などの薬剤のリスクがあります。



来院時


手術直後


手術翌日(この方はこの日に退院しました)




慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト:kompas.hosp.keio.ac.jp
Suzuki M, Ono J, Ogawa T, et al: Japan Neurotrauma Data Bank (JNTDB) : The Past, the Present, and the Future