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硬膜動静脈瘻





硬膜動静脈瘻について


 硬膜動静脈瘻とは、脳や脊髄を覆う硬膜という膜の中で、動脈と静脈が毛細血管という細い血管を経ずに直接つながっている状態(動静脈短絡:シャント)です。血液が動脈から直接静脈へ勢いよく流れ込むため静脈内の圧力が高くなり、脳や脊髄に酸素と栄養を届けた血液が静脈内に流れ込みにくくなり、血液が脳や脊髄内に滞留したり、逆流したりして循環障害を引き起こすことがあります。このような状態が続くと、血流が障害されている部位によって、意識障害、認知障害、てんかん、手足の麻痺、感覚障害、排尿障害などの症状が出現します。場合によっては、静脈が破綻して出血し、重篤な後遺症を残すことや死亡することもあります。病変の部位によっては、動脈から静脈に流れ込む速い血流の音が耳鳴りとして聞こえたり、拡張した静脈の近くを通る脳神経が圧迫されて、物が二重に見えるようになったりすることがあります。また、眼球への静脈に血液が逆流すると、眼球が飛び出てきたり、目が充血したりするだけでなく、重症の場合には視力が低下し、失明に至ることもあります。これら以外にも動静脈瘻が生じた場所により様々な症状が出現します。



硬膜動静脈瘻の検査


 硬膜動静脈瘻の検査の目的は、動脈と静脈がつながっている部位を同定し、短絡した血流が静脈内を逆流して脳や脊髄に悪影響を及ぼしているかどうかを判断することです。これらの目的のためには、脳血管撮影検査が必須であり、他の検査と合わせて数日間の入院が必要となります。

当院では、以下の検査項目を行っています。




1) 脳血管撮影


局所麻酔下で、脚の付け根の血管からカテーテルという細い管を挿入し、先端を頚部血管において造影剤を注入し、脳血管を撮影する検査です。この検査で、動静脈瘻に関与している血管や短絡部位を正確に評価することができます。


血管撮影で、動脈と静脈の短絡部位と拡張した静脈が見られる(矢印)。




2) 脳血流シンチグラフィ


脳血流シンチグラフィで、動静脈シャントの影響で脳血流が低下している部位(矢印)があることがわかる。

微量の放射性同位元素を注射し、それが血流に乗って脳に分布する割合を測定する検査です。この検査で、脳血流の局所的な上昇や低下、左右差を評価することができ、動静脈瘻があることで脳血流に影響が出ているのか推測することができます。また、必要に応じてダイアモックスという血管拡張薬を併用し、脳血管が拡張して血流が増加する程度を測定することで、脳血管の拡張する能力を評価することができます。




3) 頭部CT、CTA


CTAでは、動脈(赤)と拡張した静脈(青)の立体的な位置関係を描出することができる。

X線を用いて頭部の断層写真を撮影する検査です。造影剤を注射して撮影すると動脈と静脈を合わせた頭頸部血管の立体的な画像を作成することができ、骨と動静脈瘻の位置関係を把握することができます。




4) 頭部MRI、MRA


強い磁場を用いて頭部の断層写真を撮影する検査です。頭蓋内の構造が詳細に描出されるため、動静脈瘻によって脳に萎縮(縮み)や浮腫(むくみ)が生じているか、微小な出血があるか、血管が異常に拡張しているかなどを評価することができます。


MRI(左)では、小脳の一部に脳浮腫(矢印の白い部分)が見られる。

MRA(右)では、動脈以外に実際は映らないはずの静脈(矢印)が見られる




5) 高次脳機能検査


簡単な計算力、記憶力、注意力のテストを行い、脳の情報処理機能に異常があるか評価する検査です。動静脈瘻により脳に影響が生じている場合には、高次脳機能が低下していることがあります。




6) その他


全身麻酔で行う治療に際して麻酔の危険性などを評価するため、胸部レントゲン検査、心電図検査、心臓超音波検査、呼吸機能検査、冠動脈CT検査などを、必要に応じて行います。





硬膜動静脈瘻の治療


 治療の目的は、動静脈瘻を閉塞もしくは減少させ、血液の逆流を消失させることにより、出血を予防し、症状の進展を防ぐことです。方法としては、1)血管内手術による塞栓術、2)定位放射線治療、3)外科手術による動静脈瘻離断術があります。


1) 血管内手術による塞栓術


 動静脈瘻に流入する動脈の中へ細いカテーテルを入れて、カテーテルを通して塞栓物質を挿入することで動脈を詰める(塞栓する)方法と、同様の手法で流出する静脈を塞栓する方法があります。いずれの方法でも動静脈瘻の血流が減少して静脈圧が下がり、正常血管への逆流を止めることができます。外科手術によって脳や脊髄を直接触る必要がなく、身体への負担が少なく、治療直後から効果が期待できる方法です。ただし、動静脈瘻の場所や流入する血管によっては難度が高くなり、適応外となることもあります。


硬膜動静脈瘻治療・血管内手術による塞栓術 手術説明



2) 定位放射線治療


動静脈瘻の部位に放射線をあてて血管壁を障害し、動脈と静脈を交通する異常な血管を自然に閉塞させる方法です。全身麻酔や外科手術を必要とせず、動静脈瘻の部位のみに放射線をあてるので、周囲の正常組織に対する影響は少なくてすみます。ただ、放射線の効果はすぐには現れず、動静脈瘻が消失するまでには1〜3年かかるため、現在、脳、眼、脊髄に強い血液の逆流がある場合には、効果がすぐに現れる血管内治療や外科手術の併用が必要になります。動静脈瘻の場所や大きさによっては適応外となることがあります。


3) 外科手術による動静脈瘻離断術


 動静脈瘻がある部位に外科的にアプローチして直接観察し、流入血管を離断する方法です。治療直後から効果が期待できますが、血流量の多い血管を操作するため出血量も多くなる可能性があり、身体への負担は大きくなります。この治療法も、動静脈瘻の場所や流入する血管によっては難度が高くなり、適応外となることもあります。

 いずれの治療法も長所、短所がありますので、病変の部位、サイズ、患者さんの年齢、症状、全身状態、希望などを総合的に検討して、最適な治療法を考えることが一般的です。





治療を行わなかった場合にはどのような予後になるか


 治療せずに経過を観察する場合、症状を見ながら時々画像を撮影して動静脈瘻の形態を観察します。硬膜動静脈瘻は血流量が少ない場合、自然に治癒することもあるため、症状が軽く、脳、眼、脊髄への血液の逆流がない場合は、手術をせずに経過をみることもあります。血液の逆流がある場合には、出血するリスクも高く、長期間放置することで症状が進行性に悪化することが多いため、早期に治療することが勧められます。