血管内手術による血管形成術
まず、脚の付け根の動脈を穿刺し、ガイディングカテーテルと呼ばれる細長い管を血管内に挿入して先端を頭頚部血管の狭窄部位の近くまで進めます。次に狭窄部位の太さや長さを計測し、ガイディングカテーテルを通じて、適切なサイズの血管拡張用のバルーンが装着されたさらに細いカテーテルを狭窄部位まで誘導します。バルーンを膨らませて血管を拡張し、狭窄部位が十分に拡がっていることを確認します。十分に拡張しない場合や拡張した血管が再狭窄、閉塞する可能性が高いと判断された場合は、バルーンカテーテルをステントが装着されたカテーテルに交換し、狭窄部位にステントを留置します。狭窄部位を十分に拡がったことを確認し、狭窄部位を通過させたすべての器材を回収します。
手技が終了したらカテーテルを抜去し、穿刺した脚の付け根を圧迫して止血します。場合によっては止血器材を用いることもあります。病棟へ戻った後も数時間は穿刺した脚を伸ばした状態で安静にし、その後は状態をみながら徐々に安静を解除していきます。血管拡張に伴い脳血流が不安定になることがあり、すぐに麻酔を覚ますことが不適切と判断した場合には、翌朝まで、または、数日~1週間程度、麻酔を覚まさないで厳重に安静を保つことがあります。
手術後すぐ、または数日以内に、病変部が急激に狭窄または閉塞することがあります。その頻度は1%未満と言われていますが、この場合には緊急で追加治療や外科的手術が必要となることがあります。また、手術後数ヶ月〜数年間の経過で病変部に再狭窄が生じることがあります。その頻度は3〜5%ですが、この場合にも追加治療や外科的手術が必要となることがあります。
血管内手術による頭蓋内血管形成術の合併症
すべての合併症を含めると発生する危険は5%程度です。
1) 手術中、手術後の脳梗塞
頭蓋内血管形成術の際に最も問題となるのは、周術期の脳梗塞です。カテーテルを狭窄部位近くまで挿入する時から狭窄部位の拡張を完了するまでどの時点においても、プラークの破片や血栓が脳血管に飛散することにより、脳梗塞が生じる可能性があります。慎重なカテーテル操作や適切な抗血栓療法により予防措置をとりますが、いずれの方法も完全ではありません。また、前述したように、術中、術後に病変部が急激に狭窄または閉塞することや、カテーテルが血管の壁を損傷して血管を閉塞することにより、脳梗塞の原因となることがあります。脳梗塞を発症すると、意識障害、手足の麻痺、言葉の障害などを引き起こし、生命に危険が及ぶこともあります。目を栄養する血管が閉塞した場合には失明する可能性もあります。手術中には前述したモニタリングを行っていますが、異常を完全に検出できるとは限らないうえ、脳血管の操作により一定の割合で脳梗塞は発生します。
2) 手術中、手術後の頭蓋内出血
細心の注意を払ってカテーテルを操作しますが、手術による血管損傷や後述する過灌流現象により、頭蓋内に出血することがあります。出血が少量の場合は頭痛程度のこともありますが、出血の部位や程度によっては、意識障害、言語障害、手足の麻痺などが生じ、生命に危険が及ぶ可能性もあります。出血がコントロールできない場合や出血量が多い場合には、緊急で開頭手術が必要となることがあります。
3) 過灌流症候群
狭窄部が拡張することにより脳への血流が増加しますが、急激に血流が増加することにより頭痛、痙攣、頭蓋内出血が生じることがあり、過灌流症候群と呼ばれます。過灌流によって出血を生じる頻度は1%未満とされますが、この場合には、上述のように、重い後遺症や生命の危険が生じる可能性もあります。出血量が多い場合には、開頭手術が必要となることがあります。
4) 穿刺部の合併症
カテーテルを挿入した穿刺部から出血して血腫(内出血)を形成したり、血管の壁が薄くなって血管が膨れ、動脈瘤を形成したりすることがあります。
5) 薬剤、金属などによるショック、アレルギー症状
血管内手術のためには造影剤をはじめ多くの薬剤を使用します。これらの薬剤の安全性は高く、ステントも異物反応が少ない金属でできていますが、人によってはまれに過敏な反応(アレルギー反応)や予想外の副作用症状を生じることがあり、ひどい場合には血圧低下、ショック状態となり、死亡する可能性もあります。
6) 放射線被爆による頭髪、皮膚への影響
長時間頭部の同じ場所に放射線が当たることにより、一時的に頭髪が抜けたり、皮膚が赤くなったりすることがあります。
7) 他臓器の合併症、その他予想外の合併症
手技に伴って他臓器に負担がかかって機能が低下し、心不全、呼吸不全、肝不全、腎不全などに陥る可能性があります。また、厳重な術中、術後管理を行っていても予想できない事態が生じ、最悪の場合には死亡したり、重い後遺症を残したりする場合もあります。
万が一上記にあげた合併症が生じた場合には、追加治療や外科的手術を行わなければならないこともありますが、いかなる場合も最善の処置を施します。また、カテーテルが目的血管にうまく到達しない場合や上記にあげた合併症が生じる危険性が高いと判断した場合には、手技を途中で中止する場合があります。